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第10話 白黒将棋

Author: 瘴気領域
last update publish date: 2026-07-13 11:45:16

「はい、王手飛車取り」

「ぐっ、ま、待った!」

「おうおう、江戸っ子が待ったかい? ずいぶん粋なことをなさるねえ」

「ぐおおおお……」

「はい、王手。王手。王手。これで詰みっと。んじゃ、こいつぁもらっていくぜ。ごっつぉさん」

 将棋盤の向こうでうなだれる男から一朱金(※)を巻き上げて、辺りを見回して次の相手を物色する。湯上がりでほかほかした男たちが、囲碁や将棋、花札などに興じている。しかし、私が視線を向けるとみんな顔を露骨に背けてしまう。ちっ、この湯屋でも少し暴れすぎたか……。

「カナコさーん、そろそろ帰りますよー」

「むう、もうひと稼ぎしたかったが……致し方あるまい。帰るかあ」

「あっ、また賭け事ですか? わざわざ遠くの湯屋に行こうなんて言い出すから何かと思ったら」

「えへへへ、ちょっとだけだってば。そうだ、帰りに稲荷寿司でも買っていこうよ。美味しいお店があるらしいよ」

「もう、いつもそうやって誤魔化すんですから……」

 コガネちゃんに怒られてしまいそうなので、食べ物の話題で気をそらす。コガネちゃんはお揚げさんに目がないのだ。口では呆れたようなことを言っているが、ケモ耳がぴくぴく
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    「おのれ大場カナコぉぉぉおおお゛! ぶち殺すっ!」「うわー、怖い。狂犬病の犬みたいですね。お奉行様、怖いので帰っていいですか?」「待て、まだ何も話しておらぬではないか。鳥立、お主も静かにいたせ」 今日も今日とて元気にマシラオニ退治……と思っていたら、町奉行所から呼び出しを食らってしまった。なんでも流与の件で聞きたいことがあるそうなのだ。断るわけにもいかずやってきたら、お白洲で荒縄に縛られた流与とご対面している訳だった。 お白洲は白い砂利が敷き詰められていて、座布団代わりに薄い茣蓙が敷かれているだけだ。ここに正座をしていると結構痛いし冷たい。もう少し人権に配慮して欲しいものだ。まあ、ここには何度も来てるから、もはや慣れつつあるわけだが。「この贋金……いや、贋札と呼ぶべきか? どうやって作ったものかわかるか?」「わかんないっすねー」 座敷に座ってこちらを見下ろしているのは町奉行だ。1万円札をこちらに見せてくるが、作り方なんて私も知らない。というか、国家のトップシークレットなのだから知るわけがないのだ。「版画職人に見せたところ、これはとてつもない技術で作られているそうだ。複数を比べても寸分たわず瓜二つ。ただ南蛮文字だけが少しだけ違う。十年かかりきりになっても作れないと申しておる」「それは大したものですねえ」 南蛮文字というのはお札の通し番号のことを言っているのだろう。お札なんて普段まじまじと観察する機会はないが、めちゃめちゃ細かい意匠が正確に刷られていることぐらいは当然知っている。極めて稀にエラー印刷されたものが流通し、そういうものはプレミアが付いて高額で取引されているほどだ。「そこまでの技術があるなら、すでにある藩札を真似ることも容易だったはず。なぜ、わざわざ存在しない贋札を作ったのだと思う?」「わかんないっすねー」 そもそも、流与は贋札など作っていない。令和日本ならばきちんと通じる真正の一万円札である。いくら悪名高い皇國金融とはいえ、贋札作りにまでは手を出してないだろう。贋札は通貨の信用を毀損し、経済を破壊する爆弾だ。それは現代でも江戸時代でも変わらず重罪なのである。「そこで、そこな女を詮議したところ。奇妙な話を聞いた」「私たちは二百年先の未来から来たのよ! 大場カナコ、貴様もそうだ! どうせ未来

  • ホームレスJCの大江戸繁盛記~現代知識を駆使して一攫千金を目指します!~   第28話 時を駆ける借金取り

    「見つけたぞ! 大場カナコぉぉぉおおお!! げほっ、ごほっごほっ」 今日も今日とて寄せ場で仕事を探していると、ずぶ濡れの女が現れた。黒縁の眼鏡に黒いパンツスーツ。生まれたての子鹿のように全身をぶるぶる震わせている。あっ、唇が紫色だ。真冬だというのに御苦労なことだ。「毎度毎度マシラオニ退治ばっかりじゃ飽きちゃうよねえ。何か変わった依頼はないもんかねえ」「あのう、カナさん? 何か呼ばれてるみたいですけど……」「しっ! 目を合わせちゃいけません! きっとアブナイ人だよ」「大場カナコぉぉぉおおお!!」 無視しようと思ったら、目を血走らせながら走り寄ってきた。まったくもうめんどくさいなあ。取立屋の中でもこいつが一番しつこかったんだよな。「ふふふ、上手く逃げおおせたと思ったら思い違いもいいところだ。皇國金融債権回収部隊長、鳥立流与様からは決して逃れられん! げほっ、ごほっ」「オウ? ユーは誰デスカー? 私はビッグプレイス・カナと申しマース。ルヨさん、ハジメましてデースネー」「えっ、あれ? いやお前大場カナコだよな?」「カナコ? ノー、ミーはカナですネー。ナイストゥミーチュー」「な、ナイストゥミーチュー……?」 私は外人のふりをし、ルヨの手をがっちり握ってシェイクハンドした。こちとら仕事探しの真っ最中なんだ。こんなやつに関わっている暇などない。「って、そんなので誤魔化されるかボケぇぇぇえええ!」「あ、バレたか」「バレるに決まってんだろ! 皇國金融を舐めるなッッ! 貴様の債権74兆3,031億円! 耳を揃えてきっちり支払ってもらうぞ!! げほっ、ごほっ」「ほーん」 まさか時空を超えて取り立てに来るとは、まったく仕事熱心なことである。まあ、意外と言えば意外ではあるのだが、こういう事態が生じることは想定の範囲内だ。何しろ私がこの世界に流されて来たのだから、他の誰かがやってきてもおかしくはない。「あの……どこのどなたか存じ上げませんが、まずは体を拭いた方が……」 ぶるぶる震えるルヨを見かねたのか、コガネちゃんが手ぬぐいを差し出した。「むっ、これはすまん。見知らぬコスプレイヤーの人」「こす……?」 ルヨは手ぬぐいを受け取ると、髪をがしがしと拭き始めた。ふふふ、この反応から察するに、案の定こいつもまだ異世界に来たことを認識してないな。

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